作家・吉村喜彦のホームページ

雲ひとつない、快晴の東京。
暑い。とにかく、暑い。

ちょっと歩くだけで、とても疲れます。
朝おきると、だるい。めっちゃ、だるい。

そんなある日、
「疲れたときには、うなぎだよ」
と江戸っ子のイトコ、スーちゃん
が教えてくれました。

そうか。
やっぱり江戸っ子は、うなぎ、か。

というわけで、食べに行きました。
神谷町の「五代目野田岩・麻布飯倉本店」。

(東京タワーのすぐ近くにお店はあります)

(東京タワーのすぐ近くにお店はあります)

店に入ると、美味しそうな「うなぎのたれ」の香りに
包まれます。
もう、それだけでお腹がなりそう。

(まずはお吸い物)

(まずはお吸い物)

ご飯の上に隙間なく載ったうなぎ。
箸を入れると、すっと、うなぎの身が切れます。
下にあるご飯と一緒に口に含むと、
ふっくらとして、まるでスフレみたい。
舌の上で、柔らかく溶けていく感じ。

(うな重。「桂」5400円)

(うな重。「桂」5400円)

ご飯も一粒一粒が、しっかりと自分というものを持っています。
ご飯同士が、互いにべとついた関係ではありません。

たれのかかったご飯が、ほんとうに美味しいです。

食べすすむうちに、身体が芯からほっこりしてきます。
血がめぐってきたんでしょうね。

炎暑と冷房のなか、右往左往する自律神経は、失調しがち。
そんなときに、うなぎは、自律神経も整えてくれるようです。

(箸置きも、うなぎ)

(箸置きも、うなぎ)

家に帰ってきて、風呂に入りながら、
内田百閒(うちだ・ひゃっけん)の古い文庫本を読みかえしていると、
「東京日記」の中に、たまたま「うなぎ」が出てきて、びっくり。

巨大うなぎが皇居のお濠(ほり)から這いあがって、
日比谷交差点から数寄屋橋方向に動いていく、という話があって、
不思議な恐怖感のある、奇妙な味わいの小説でした。

そういえば、百閒の「サラサーテの盤」(鈴木清順監督の映画「チゴイネルワイゼン」の原作)
には、親友と川べり(リバーサイドですね)の料亭で、
大きなうなぎの蒲焼きを食べる情景がありました。

映画では、原田芳雄が蒲焼きを指でつまんで持ちあげ、
下からかぶりつくというシーンになっていました。

夜の東京タワー

百閒は、うなぎが好きだったそうです。
晩年に27日間、うなぎの蒲焼きを食べ続けたという話もあります。

(内田百閒の肉声です)
 

 

うな重を他所(よそ)からもらうと、
まず上に載った蒲焼の部分は捨てさり、
たれの染みたご飯だけを美味しくいただく、
ということもしたそうです。

頑固一徹、反骨で、自分の主義を貫きとおしながらも、
お茶目な姿勢が、素晴らしい。

百閒の有名なことばに、
「嫌なものは嫌だ」
というのがあります。

まさに、その通り。
「嫌なものは嫌だ」と
食べものにも、ひとにも、
はっきり言うことはたいせつですね。

「AにはAの良いところがあり、BにはBの良いところもあるんですから、
そこんところ、まあまあ」
なんて言っているのが、「おとな」と思っているのは大間違い。

夏は暑い。
うなぎは美味い。
炭酸はのどに心地いい。

裏表のあるやつは、嫌い。

これで、決まり。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です