いずれも、からっと晴れるということはなかった。
空気の中に微細な水の粒子が浮んでいるようで、肌がじっとりと汗ばんだ。

でも、この暑熱と湿気がいい。
ビールがことのほか美味しい。

食べものは、なんといっても、生春巻き(ゴイクォン)。
ホーチミンで食べたときは驚いた。
それまで東京で食べていた生春巻きは、
いったい何だったのかと思った。
透きとおったライスペーパーに巻かれたエビの赤さとハーブのみどり、
ニンジンの橙色が、目にスッと飛びこんでくる。

この涼やかさはどうだ。
この澄明と洗練はどうだ。
見ているだけで、体温がすっと下がる。
まわりの空気が、清潔になる。
ひとくち頬ばると、
やわらかく繊細なライスペーパーの食感とともに、
南の植物、ミントやパクチーの香気、
そしてエビの甘みが口中にふんわりと広がるのだ。
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ゴイクォンの「ゴイ」とは、「和える」、
「クォン」は「巻く」という意味。
もともと緑ゆたかなベトナム南部の家庭料理だったが、
1986年にはじまったドイモイ政策
(社会主義体制を維持しつつ市場経済を導入する)
で、ベトナム料理が世界に広がっていった。
その流れのなかで、ゴイクォンの人気が高まったのだ。



先日、川崎市・武蔵新城駅近くのベトナム料理屋で食べたゴイクォンは
現地で食べるのと同じくらい美味しかった。
出来たてをサーブしてくれるので、
しっとりしたライスペーパーが、エビや野菜をきゅっと包みこんでいる。
この食感はなかなか東京では体験できない。

エビは、バナメイエビ。
ベトナムはエビ養殖量が世界3位。
南部のメコンデルタで盛んに行われている。
ライスペーパーの原料である米の生産量は世界5位。
日本のおよそ5~6倍だ。

ベトナムは米とエビの国。
野菜とハーブの種類や量も半端ではない。
食堂に行くと、野菜が食べ放題のところも多い。
ライスペーパー代わりに野菜で巻いたゴイクォンもあった。

合わせるお酒は、ベトナムの焼酎、「ネプ・モイ」。
原料は米。
透明な液体でアルコール度数40度。
グラスを近づけると、つきたてのお餅のような甘い香りがする。

ひとくち飲む。
と、それほどアルコールのきつさを感じない。
むしろリキュールのようにスイートだ。
飲み過ぎに気をつけねばならないほど、おいしい。
ゴイクォンをつまんで、口に含むと、米同士の相性で、抜群のマリアージュだ。

むかし、初めてコニャック地方に旅したときに、
葡萄をおつまみにしてコニャックを飲んだことがあった。
これがじつに良かった。
やはり、原料が同じもの同士は惹かれあう。
だから、ゴイクォンには、ネプ・モイ。
今年の夏の定番になりそうだ。



