作家・吉村喜彦のホームページ

JF全漁連WEBでの連載「ニッポンさかな酒
「小田原・アジな旅」について書きました🍀
https://sakanadia.jp/sakana/odawara_horse_mackerel/
     *
初夏の一日、小田原に遊んだ。
新幹線をつかえば、東京の自宅から1時間ほどの距離だ。
小田原城
東海道線で小田原の次、早川駅で降りると、
すぐ近くに漁港と小田原市漁協がある。
小田原漁港

 拙著『漁師になろうよ』の取材時に、
こちらの漁協で漁師カッパの上下を買い、
米神(こめかみ)の巨大定置網での漁に同行させてもらった。

そのときインタビューした漁師は、
いま定置漁の漁労長をされている。

たしか、2000年の初冬だった。
漆黒の闇につつまれた午前一時半に港を出発。
夜明け前に港にもどり、
漁師がつくってくれた魚料理を食べさせてもらったが、
その美味しさが忘れられなかった。

 

アジ

小田原の魚はうまい、という定式がこのときでき上がり、
東京の慌ただしいリズムに疲れると、
この浜に、ふっと息抜きに向かうのだ。

通りをみどりの風が吹きすぎていく。
梅雨入り前の小田原は明るい陽光にあふれていた。

紫陽花

 

早川

 

漁港の周りにはたくさんの食堂がある。
そのうちの一軒「やまや」に入った。

やまや

 

 ぼくの小説『江戸酒おとこ』の舞台となった
浅草の酒蔵「山屋」と同じ名前である。
何かご縁があるに違いない。

暖簾をくぐって、店に入る。
カウンターのみの小さな店は、女性4人で切り盛りしていた。

オーダーしたのは「鯵セット2200円」。
アジのたたき丼に、アジ・フライ2枚、アジ・コロッケがついている。

まずは、ビール。
もちろんサッポロの赤星だ。
暑い季節にぴったりのテイスト。
さわやかな苦みが、舌の奥をキュッと引きしめてくれる。

赤星

アジのたたき丼が出てきたので、まずは醤油も何もつけずに味わう。

アジたたき丼

これは、日本酒に合わせたい。
店には神奈川の酒を置いてあるという。

さっそく出してくれたのは、「隆(りゅう)」という純米吟醸酒。

隆

丹沢山系の水をつかい、米は美山錦。
2025年度醸造の生酒。槽(ふね)しぼり。足柄上郡山北町の川西屋酒造店の逸品で、稀少な銘柄だという。発酵を終えたもろみを酒袋に入れ、
ゆっくりと搾った無加熱処理の酒。

隆グラス

 

するするした飲みくち。
シュッと引き締まった舌ざわり。
雑味のない、クリアさ。
ドライな中に、ほのかに米のうま味を感じる。

フレッシュで淡麗な味わいは、獲れたてのアジのたたきにじつによく合う。

*    *    *

つづいて、アジ・フライ。
さくっとした衣の中にあるアジは、まったく臭みがない。
小田原の海がそのまま魚になって、それを揚げました、という感じ。

いままで食べたアジ・フライの中で最上だ。

よい酒は水に似ていると言われるが、
よい魚の味も水に似ているのかもしれない。

感動したのは、初めて食べたアジ・コロッケ。
あたたかく朴訥としたジャガイモ。
アジの滑らかで控えめな風合が、絶妙のハーモニーを生みだしている。

あじフライ

「隆」はフライもコロッケもその味をうまく引き立てた。

アジのたたき、揚げものたち、
そして、「隆」も「サッポロ赤星」も、それぞれ謙虚で品がいい。
決して「おれが、おれが」と声高に叫ばない。
背伸びをしない。ウソを言わない。

近年、日本でも世界でも、間違った自己主張や権威をかさに着た空威張りなど、
誠実さと遠く隔たったものを見せられつづけている。

この店のカウンターに立つ女性たちは、目の回るほどの忙しさなのに、
自然な笑みを浮かべている。
客も「ごちそうさま!」と礼儀正しく挨拶して帰っていく。

当たり前が、あたりまえとして、ここにある。

小田原の魚と酒、そして人は、職人(プロフェッショナル)的な直球勝負を、
ひたすらフツーにこなしている。
そんなスタンスがとても好きだ。

自宅からこんな近くに、
あかるい海と空があるのだ。
きれいな風が吹いているのだ。

小田原マンホール

 

小田原のアジが教えてくれた。

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