インターFM ロバートハリスさんの「おとなのラジオ」
本日のお話は、「チェリー・ヒーリング」。
全文はこんな感じ。
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今日は、サクランボのリキュール、
チェリー・ヒーリングをご紹介します。
このお酒、色はダーク・ガーネット。
アメリカンチェリーのような深く赤い色をしていて、上品でスイートな味わいのリキュールです。
生まれたのは、コペンハーゲン。
1818年のこと。
日本でいえば、まさに文化文政時代。江戸の文化が花開いている頃です。
アルコール度数は24度。
甘いわりに、けっこう度数はあるんです。
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さて、今日から4月も最終週。
桜の花はもう終わって、もうすぐサクランボのおいしい季節になるころですが・・
春は、やはり、「出会いと別れの季節」。
卒業、入学、就職、転勤、異動・・
人生の、いろんな転機を迎えるとき。
花は、そんなぼくらを、いつも淡々と見まもってくれているような気がします。
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平安時代から「花といえば桜」となっていますが、
花というのは、「はしっこ」=ボーダーという意味の「端」(はな)を意味していると思います。
つまり、
「昨日と今日」
あるいは、
「現世と来世」の境界(ボーダー)に咲く。
それが花なんですね。
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春のうつろいやすい天気や気分は、まさにオン・ザ・ボーダーにいることを実感させてくれるように思います。
そんな「あわい」の季節にぴったりなのが、チェリー・ヒーリング。
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かつて、ぼくが20代の会社員時代。1984年、いまから41年前の4月。
初めてチェリー・ヒーリングを飲みました。
転勤辞令を受けて、広島の営業から東京の宣伝部に帰ることになったときのことです。
ぼくにとってはうれしい転勤だったのですが、当時、離れがたいガールフレンドがいました。
辞令をうけた後、彼女と、海が見えるレストランで食事をしました。
デザートのとき、
彼女はチェリー・ヒーリングのかかったアイスクリームを口に運んでいました。
そんな食べ方を知らなかったぼくは、
彼女のスプーンでそのアイスクリームを食べました。
甘酸っぱいエキスの溶け込んだその味は、ふたりで過ごしたキラキラした時間を映していました。
チェリー・ヒーリングが美味しかったので、トニックウオーターで割ってもらうと、
それは、瀬戸内の夕焼けの色になりました。
「東京まで一番はやい新幹線で何時間かな?」
と彼女。
「ひと月に一度、広島に帰るね」
とぼく。
やわらかい風に、桜がはらはら散っていました。
ひと月に一度の約束は、やがて2ヶ月に一度になり、徐々に逢瀬の頻度は間遠になっていきました。
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春。
うつろう「あわい」に咲く花。
その果実のエキスがチェリー・ヒーリング。
甘酸っぱく、せつない味わいを、ぜひ。