作家・吉村喜彦のホームページ

☆今月のテーマは、「おいしい脇役」

映画でも脇役が光るものに、いい作品が多いです。
小津安二郎の映画にたびたび登場する中村伸郎(のぶお)や北竜二(きた・りゅうじ)。
渋いですよね。食べものも、秋刀魚に添えたスダチのように、脇役の力、とっても大きいです。
今回は、そんな「おいしい脇役」を求めて、世界の旅に出かけましょう。

●10月24日(月)

 ドイツといえば、ビール。
10月、そしてビール・・といえば、先日、ミュンヘンで世界最大のビールのお祭=
オクトーバーフェストが開催されましたが、このお祭は1810年から開かれているそうです。
約200年の歴史。さすが、ビールの本場ですよね。
 ドイツでは、1516年に、バイエルン公ヴィルヘルム4世が、「ビール純粋令」というのを出しました。
「ビールは、麦芽・ホップ・水・酵母だけを原料とする」という内容です。
 織田信長が生まれたのが、1534年ですから、その18年前のできごとです。
 さて、そのビールの脇役といえば、なんといっても「ホップ」。
 ビールの独特の香りや爽やかな苦みは、ホップから来ているんですね。
 ホップの原産地は西アジアの高原地帯ではないかと考えられていて、
その後、ヨーロッパに伝わったとされています。
 ドイツ最古のホップ栽培は8世紀前半。
バイエルンのハラタウ地方に初めてホップ園が作られたという記録があるそうです。
ハラタウは今もホップの有名な産地で、毎年秋には「ホップの女王」が選ばれています。
 ホップを初めてビールに添加したのは、12世紀。
なんと、ライン河畔にあった女子修道院の院長(尼さん)なのだそうです。
ホップがビールの重要な脇役になる以前は、たとえばニガヨモギなど、
いろんなハーブやスパイスがブレンドされて、風味づけに使われたそうです。
 ビールの醸造メカニズムがよくわからない時代、ベテランのビール職人でも酸っぱいビールになることがあったので、味や香りの強い植物を調合してビールの風味づけに使っていたのだとか。
ホップが使われるようになったのは、ホップの苦味がスッキリとして口当たりが爽やかなこと、プラス、抗菌作用があったためです。
 そうして、ホップはビールにとってなくてはならないものとなったんですね。
ビールの偉大なる脇役、ホップに乾杯しながら、藤山一郎の歌う「ビア樽ポルカ」。
聴きましょう。
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藤山一郎「ビア樽ポルカ」                 3:02
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では、今日、最後は、フランスで翼を休めましょう。
 フランスは、ソースの国。
オランデーズ・ソース、マデラ・ソース、ペリグーソースなどなど、枚挙にいとまがないほど、いろんなソースがありますが、タルタルソースもそのひとつ。
タルタルソースとは、マヨネーズをもとにしたソースで、ゆで卵、胡瓜のピクルス、タマネギ、ケッパー、パセリなどの野菜を一緒にみじん切りにして混ぜ込んだもの。
マヨネーズを基本としながらも、酸味や辛みのきいたさまざまな食材を混ぜ合わせているので、フライなどの揚げものをさっぱり食べるときに、絶妙の脇役の味わいを醸しだしています。
 さて、フランス語ではタルタル(tartare)、英語でターター(tartar)というこの言葉。
 中央アジアの遊牧民、タタール族(ダッタン)が語源と言われています。
 馬の生肉と香味野菜を細かく刻んで食べていたものがヨーロッパに伝わったのが、
タルタルステーキなのだとか。
 タルタルソースを作るときにも、タマネギやパセリ、ピクルスなどを細かく切り刻みますが、その様子が、タルタルステーキ作りに似ているので、
 この名前がついたのだといわれています。
異国をイメージさせる「タルタル」という言葉から、遠い旅路のロマンをソースや肉の味わいに重ねたのでしょうね。
 では、ジャック・マイユーの歌う「アコーディオン」を聴きながら、今日はお別れです。
タルタル。うーん。足るを知ることはたいせつなことですね。
ご案内は、吉村喜彦でした。
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ジャック・マイユー「アコーディオン」           3:00
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プロデュース:吉村有美子