11月下旬に厚岸に行った。
風邪をひいて体調は最悪だったけれど、
弱った心身に、なぜか冬の北海道の枯れて寂しい風光がしみた。
そんなおり、極寒の地を旅する本を読んだ。
樺太(サハリン)を縦断し、
間宮海峡を発見した間宮林蔵について書かれた歴史小説だ。

吉村昭の『間宮林蔵』。
長い。文庫本で495ページ。
しかし、一気読みだった。

19世紀初頭、世界地図の中で樺太は唯一謎の地域だった。
樺太は島か? 大陸の一部(半島)か?
間宮は、過酷な探検行の末、樺太が島であることを確認する。

吹きすさぶ雪嵐のなか、凍傷に苦しみながらの苦難の旅が、
克明に再現されている。
その旅は、樺太から海峡をわたって、「東韃靼(ひがしだったん)」
=げんざいの中国東北部、とくに黒竜江(アムール川)下流域一帯にまで及ぶ。
ともに旅をし、通訳もしてくれたアイヌ。
ニヴフ(ギリヤーク)やウィルタ(オロッコ)など、
土地の人との交流が胸にくる。
束の間、タイムトリップしたような、
脳内旅行ができる。

後半は、樺太から帰ってきてからの話。
江戸にもどると、人びとの眼は、
夢のような旅をした間宮へのリスペクトできらめいていた。
しかし、ひょんなことで、
シーボルト事件に絡んで思いがけない悪評(「間宮は密告者だ」という噂)にさらされることになる。
一方、幕府上層部は、間宮の健脚と豪胆、忠実と直言を買い、、
やがて幕府隠密として各地を巡らせることになる。

上司からは認められ、金銭的になに不自由のない暮らしをしながらも、
胸のうちを吹く冷たい風───。

旅に生きざるを得なかった間宮林蔵の人生。
その光と影を描いた、
悠々と流れる大河のような小説だった。

