作家・吉村喜彦のホームページ

暑いときは苦いものが美味しいです。

今日は、「アンゴスチュラ・ビターズ」というリキュール。

リキュール、といっても、その名の通り、とっても苦いお酒です。

     *

このアンゴスチュラ・ビターズ。

もともと南米ベネズエラでつくられた健胃薬。

つまり、胃のはたらきを助ける薬だったんです。

 ところが、アルコール度数が45%もあるんですね。

そうすると人間は、(というか酒飲みは)さもしいもので、

すこしでもアルコールが入っていると、これを薬ではなく、お酒として飲んじゃえ。

と、まあ、こうなるわけです。

 

昨日、お話したジン。あれもまったく同じ。

もともとはオランダでつくられた薬だったんです。

マラリアなどの熱病のためにつくられたんですね。

ところが、これが爽やかな香りでキリッとして美味しい──

ということで酒飲みたちの人気になった、というわけです。

アンゴスチュラ・ビターズ

さて。そのアンゴスチュラ・ビターズ。

よくバーの棚の片隅におとなしく、ちんと坐っています。

ボトルからはみ出した超特大ラベル。

これが何より目立っています。

ラベルのおかげでボトルがよく見えない。不思議な外観です。

 

 しかし、このアンゴスチュラ・ビターズは、カクテル界の名脇役なんですね。

 むかしなら大滝秀治(ひでじ)や成田三樹夫(みきお)、小林稔侍(ねんじ)、大杉漣(れん)。今なら松重豊(まつしげゆたか)とか。そういった感じ。

 バーの棚の隅にいても、存在感ばっちりです。

   *

 味は、とにかく苦い。でも、そこに植物のあおい香りがすーっと立ち上がる。

ベースはラム酒。

リンドウや数種類のハーブ、スパイスをブレンドしているようです。

   *

 のどの渇く夏。

 飲みたいのは、ジン・トニックですが、アンゴスチュラ・ビターズを数滴たらす。

 すると、ほろ苦さが、舌をキュッと引きしめ、液体がよりいっそう静謐に、静かに冷たくなります。

 以前、カリブ海にドルフィン・スイミングに行ったとき、

船の上で、ヘミングウェイの真似をして、

ジンと生のライムとココナッツジュースを注ぎ、アンゴスチュラ・ビターズを数滴おとして飲みました。

●ライムのつんとした冷たさ

●アンゴスチュラ・ビターズのどことなくニスを思わせる香り

●ココナッツ・ジュースのまろやかさ

●ジンのキレのある味

これらが、カリブの潮風にぴったりでした。

液体の色は、錆びたピンク色になっていました。

そういえば、ジンにアンゴスチュラ・ビターズをたらすと、「ピンク・ジン」という立派なカクテルになります。

ピンクジン

苦みはおとなの味わい。

いれたての緑茶、とれたての山菜、渓流のわさび、秋刀魚のはらわた──。

清冽なほろ苦さは、おとなにならないと、わからない味。

甘さはだれにでも、子どもにでもわかる味わい。

甘いだけ、見てくれだけ、上っ面だけの薄っぺらなコンテンツが跋扈しています。

「この国はお子ちゃまバンザイになってしまっていて、情けない」

そうお嘆きのあなた。

ぜひ、アンゴスチュラ・ビターズをご賞味ください。

ほっとひと息つけると思います。

「苦い朝もある」

ママレードの宣伝コピーに、そんなのもありました。

最近のCMは薄っぺらで、そういう深みのあるコピーを見かけません。

ママレードも苦いから美味しいんです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です