インターFM ロバートハリスさんの「おとなのラジオ」
本日のお話は、「泡盛」。
全文はこんな感じ。
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ぼくは、じつは、泡盛マイスター第1号です。
すべての蒸留所の泡盛をテイスティングしました。
蒸留所それぞれに、じつにいろんな味わいがあって、とってもおもしろいです。
小さな蔵元でつくる、個性豊かな味わいが、泡盛の特徴でもあると思います。
この泡盛。
じつは焼酎のお兄さん、なんです。
琉球から泡盛づくりの技術が薩摩に伝わって、焼酎が生まれたんです。
そう、泡盛は、日本でいちばん歴史のある蒸溜酒です。
沖縄が大交易時代をむかえていた15世紀(室町時代のあたりですね)には、すでに琉球王国の都=首里でつくられていました。
中国と交流の深かった琉球王国。
まず福州から蒸溜酒が入ってきて、その後、タイなどの東南アジアから、泡盛の造り方や熟成方法が伝わってきたそうです。
アジアのコミュニケーションから生まれた、
そもそもの誕生から、
平和を愛する琉球的なお酒なんですね。
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泡盛の原料はタイ米。ちょっと細長いインディカ米です。
ちなみに、ぼくらがよく食べているのは、ジャポニカ米。
そのタイ米に黒麹菌をくわえて、発酵。その後、蒸留してつくられます。
一般的に、お酒ができるには、糖分(甘いもの)があって、
そこに酵母があれば、糖が発酵してお酒になります。
たとえば葡萄は、それ自体に糖分があるので、空気中の酵母が関わって、わりと簡単に発酵します。
ところが、米や麦などの穀物は、
まず、そのデンプンを糖分に変えねばなりません。
米は、麹をつかって、糖化させています。
麹というのは、カビの仲間。
日本酒は、黄麹菌。
泡盛は黒麹菌をつかいます。
この黒麹菌。
特徴はクエン酸をつくりだすこと。
お酒造りでいちばん怖いのは、雑菌が入って、お酒が腐ってしまうことなんですね。
ぼくの小説『江戸酒おとこ』でもこの、お酒の腐敗がテーマになっています。
で、酸性のつよい黒麹で仕込まれた「もろみ」は雑菌が繁殖しにくい。
ほぼ一年中あたたかい沖縄で、これほど酒造りに適した麹はない、というわけです。
泡盛の蒸留所に行くと、壁一面が真っ黒になっていますが、
これ、じつは黒麹菌なんですね。
泡盛は、熟成するお酒。
年月とともに、美味しくなっていきます。
なぜか、未熟な若さがもてはやされる、どこかの国の「文化」とは対極のところに、あります。
沖縄では、酒造所でできた泡盛を、それぞれのお家で南蛮甕に入れて熟成させ、
そのお家独自のクース(古酒)をつくる文化があります。
琉球王朝以来のゆかしい文化です。
古酒をつくるには、「仕次ぎ」という独特の方法をとります。
古いお酒を少し取り出し、そこに新しいお酒を入れていく、という鰻のたれのような手法。
シェリーの熟成も同じようにやりますね。
甕の中で育った泡盛、古酒。
淡い黄金色をしたお酒は、深い味わいなのに、さらっとしていて、まさに、おとなのお酒です。
いま、沖縄では個人の古酒造りが盛んになっていて、100年後に古酒を飲もうねえ、という会もつくられています。
オジイ、オバアを敬い、
生命のサイクルを信じる沖縄ならではの仕次ぎによる古酒づくり。
暮らし、生活に根ざした泡盛の文化、
ほんとうに素敵です。
戦前には200年をこえる古酒があったそうですが、戦争ですべて失われてしまいました。
戦争は、ぜったい反対です。