「五月の風をゼリーにしてください」
と言ったのは、夭折した詩人・立原道造ですが、
一年のなかで最も気持ちのいい季節、
それは、この五月かもしれません。
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いまは一年中食べられますが、
子どもの頃、五月のフルーツといえば、イチゴやキイチゴでした。
今日、ご紹介するのは、そんなキイチゴの仲間、
フランボワーズから生まれたフルーツ・ブランデー、
「オー・ド・ヴィー・ド・フランボワーズ」。
オー・ド・ヴィーとは「命の水」という意味で、蒸溜酒のことです。
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フランボワーズはフランス語。
英語で言えば、ラズベリーズ。
ほわっとした、可愛らしい赤いフルーツですよね。
このお酒、フランス北東部、ドイツ国境近くのアルザス地方で生まれます。
たしか教科書に載っていた短編小説「最後の授業」の、あのアルザスです。
フランボワーズのブランデー。
ぼくは、バーの片隅に置かれた、長いネックのボトルを見て、一目ぼれしてしまいました。
透明な液体。
シュッとしたボトルシェイプ。
これが、とても美しい。
ラベルの文字も手書きでシンプル。
清楚で、凜とした気品が漂っています。
フランボワーズを、細身のチューリップ型グラスに注ぐ。
ストレートでひとくち。
と、あおい草の息吹きや土のにおいが、立ち上がってきます。
少年の日、川辺の、草むらのなかで遊んだ記憶がよみがえります。
グラスに水をすこし差すと、木イチゴの種を噛んだときの香りがフワッと開きます。
上品でノスタルジックな香り、というのでしょうか。
このお酒を飲んでいると、その名もラズベリーズというバンドを思いだします。
昨年亡くなったエリック・カルメンが率いていたバンドです。
1972年。「明日を生きよう」がシングルヒット。
その頃、ビートルズはもう解散していたのですが、
まさにビートルズを引き継いでいるなようなメロディとビートでした。
はじめて聞いたとき、胸がキュッとしめつけられる思いがしました。
なんといっても、エリック・カルメンのボーカルはポールによく似ていました。
そんなこんなで、
ブランデー界のコニャックがビートルズだとすると、
「フランボワーズ」は、ブランデー界の、まさにラズベリーズ。
五月の風を蒸留したようなこのフランボワーズ。
さわると、ほろほろくずれそうな、命の繊細さを象徴したお酒のように思います。
この美しい五月に、ぜひ。