作家・吉村喜彦のホームページ

今日は、ブラジルのお酒「ピンガ」です。

   *

ピンガはサトウキビからできる蒸溜酒。

同じサトウキビから生まれるラム酒よりも、テイストは、ちょっと重い感じです。

というのも、ピンガはサトウキビの絞り汁に水を加えず、そのまま発酵蒸留させているからです。

 蒸留の器械も、シンプルなものを使っているので、蒸留しきれず雑味が残っているんですね。

 ひとくち飲むと、サトウキビのみどりの香りと黒糖のような味わいがして、それが土っぽくて、とてもイイ感じ。

 まさに、「土地の酒」です。

カシャーサ

 ピンガは、リオのあたりではカシャーサと呼ばれますが、

 ストレートはもちろん、「カイピリーニャ」というピンガ・ベースのカクテルが国民的ドリンクです。

 この「カイピリーニャ」。

 ピンガにライム・ジュースを搾って、砂糖をすこし。

 飲み口が爽やかな、夏にぴったりのカクテルです。

 ぼくはこれを炭酸水で割るのが好きです。

 音楽はもちろんサンバ。

 少し苦みのある、甘酸っぱい音は、ピンガのオン・ザ・ロックやカイピリーニャにぴったり。 

    *

 さて。

「夏は夜」と言ったのは平安時代の清少納言。

昼の炎熱が去って、風がそよ吹きはじめる頃。夕立の後のみずみずしい空気が、まだ漂う夏の夜。

 やっと涼しくなって気持ちよく過ごしているはずなのに・・なぜか、昼間のカッと照りつける太陽が思いだされたりします。

 吹き出る汗をぬぐいながら歩いた道が、不思議と、頭に浮かんできたりします。

     * 

 ブラジルに「サウダージ」という言葉があります。

「望郷のおもい」と訳されますが、

「失くしたものを思う」といったニュアンスだと思います。

 

 船が大海原をすすむとき、船尾(とも)から一すじの白い水脈(みお)を眺めるように、時のうつろいを感じること。

 それがサウダージの感覚だと思います。

 カイピリーニャ

夏の夜に、昼を思う感覚は、「サウダージ」に近いのかもしれません。

 時間の海をわたる船は、けっして逆方向には進まない。

 「老い」や「死」や「別れ」は必ずやってくる。でも、船は進み続ける。

 ピンガを飲み、枯れたサンバを聞いていると、そんなことを思います。

 ピンガは透明なお酒ですが、

 「透明になりきれないかなしみ」を抱えた人に、

「ぼくも同じだよ」と

そっと寄り添ってくれるように思います。

ピンガは、「かなしみ」を知った「やさしいお酒」なのです。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です