今日は、ブラジルのお酒「ピンガ」です。
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ピンガはサトウキビからできる蒸溜酒。
同じサトウキビから生まれるラム酒よりも、テイストは、ちょっと重い感じです。
というのも、ピンガはサトウキビの絞り汁に水を加えず、そのまま発酵蒸留させているからです。
蒸留の器械も、シンプルなものを使っているので、蒸留しきれず雑味が残っているんですね。
ひとくち飲むと、サトウキビのみどりの香りと黒糖のような味わいがして、それが土っぽくて、とてもイイ感じ。
まさに、「土地の酒」です。
ピンガは、リオのあたりではカシャーサと呼ばれますが、
ストレートはもちろん、「カイピリーニャ」というピンガ・ベースのカクテルが国民的ドリンクです。
この「カイピリーニャ」。
ピンガにライム・ジュースを搾って、砂糖をすこし。
飲み口が爽やかな、夏にぴったりのカクテルです。
ぼくはこれを炭酸水で割るのが好きです。
音楽はもちろんサンバ。
少し苦みのある、甘酸っぱい音は、ピンガのオン・ザ・ロックやカイピリーニャにぴったり。
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さて。
「夏は夜」と言ったのは平安時代の清少納言。
昼の炎熱が去って、風がそよ吹きはじめる頃。夕立の後のみずみずしい空気が、まだ漂う夏の夜。
やっと涼しくなって気持ちよく過ごしているはずなのに・・なぜか、昼間のカッと照りつける太陽が思いだされたりします。
吹き出る汗をぬぐいながら歩いた道が、不思議と、頭に浮かんできたりします。
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ブラジルに「サウダージ」という言葉があります。
「望郷のおもい」と訳されますが、
「失くしたものを思う」といったニュアンスだと思います。
船が大海原をすすむとき、船尾(とも)から一すじの白い水脈(みお)を眺めるように、時のうつろいを感じること。
それがサウダージの感覚だと思います。
夏の夜に、昼を思う感覚は、「サウダージ」に近いのかもしれません。
時間の海をわたる船は、けっして逆方向には進まない。
「老い」や「死」や「別れ」は必ずやってくる。でも、船は進み続ける。
ピンガを飲み、枯れたサンバを聞いていると、そんなことを思います。
ピンガは透明なお酒ですが、
「透明になりきれないかなしみ」を抱えた人に、
「ぼくも同じだよ」と
そっと寄り添ってくれるように思います。
ピンガは、「かなしみ」を知った「やさしいお酒」なのです。