作家・吉村喜彦のホームページ

「五月の風をゼリーにしてください」

と言ったのは、夭折した詩人・立原道造ですが、

一年のなかで最も気持ちのいい季節、

それは、この五月かもしれません。

5月

   *

いまは一年中食べられますが、

子どもの頃、五月のフルーツといえば、イチゴやキイチゴでした。

 

今日、ご紹介するのは、そんなキイチゴの仲間、

フランボワーズから生まれたフルーツ・ブランデー、

「オー・ド・ヴィー・ド・フランボワーズ」。

オー・ド・ヴィーとは「命の水」という意味で、蒸溜酒のことです。

 

   *

 

フランボワーズはフランス語。

英語で言えば、ラズベリーズ。

ほわっとした、可愛らしい赤いフルーツですよね。

このお酒、フランス北東部、ドイツ国境近くのアルザス地方で生まれます。

たしか教科書に載っていた短編小説「最後の授業」の、あのアルザスです。

フランボワーズ

 フランボワーズのブランデー。

 ぼくは、バーの片隅に置かれた、長いネックのボトルを見て、一目ぼれしてしまいました。

 透明な液体。

 シュッとしたボトルシェイプ。

 これが、とても美しい。

 ラベルの文字も手書きでシンプル。

 清楚で、凜とした気品が漂っています。

フランボワーズを、細身のチューリップ型グラスに注ぐ。

ストレートでひとくち。

と、あおい草の息吹きや土のにおいが、立ち上がってきます。

少年の日、川辺の、草むらのなかで遊んだ記憶がよみがえります。

グラスに水をすこし差すと、木イチゴの種を噛んだときの香りがフワッと開きます。

フランボワーズ2

   

 上品でノスタルジックな香り、というのでしょうか。

 このお酒を飲んでいると、その名もラズベリーズというバンドを思いだします。

 昨年亡くなったエリック・カルメンが率いていたバンドです。

 1972年。「明日を生きよう」がシングルヒット。

 その頃、ビートルズはもう解散していたのですが、

まさにビートルズを引き継いでいるなようなメロディとビートでした。

 はじめて聞いたとき、胸がキュッとしめつけられる思いがしました。

 なんといっても、エリック・カルメンのボーカルはポールによく似ていました。

 そんなこんなで、

 ブランデー界のコニャックがビートルズだとすると、

 「フランボワーズ」は、ブランデー界の、まさにラズベリーズ。

 

 五月の風を蒸留したようなこのフランボワーズ。

 さわると、ほろほろくずれそうな、命の繊細さを象徴したお酒のように思います。

 この美しい五月に、ぜひ。

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