作家・吉村喜彦のホームページ

ツバメ二羽 イラスト・岡崎勝男

バー・リバーサイドは、東京のはずれ、二子玉川にあります。

横長の窓からは、美しい夕映えや、ゆったり流れる多摩川が見えます。

二子玉川

カウンターには、二人のバーテンダー。
ひとりは、渋いマスター川原草太(60歳)。
京都の大学で、工学部の万年助手をやっていたが、
大学でいろいろあって、ふるさと二子玉川に戻って、バーを始めた。

二子玉川の植物

アシスタントは、
沖縄生まれのイケメン青年・新垣琉平(30歳)。
ちょっとおっちょこちょい。
でも、じつは冷静なまなざしを持ち、
年上のひとにも気後れせずに、ズバズバ言う。
琉平のオバアは、霊感の高いひとで、琉平もその血を継いで、
妙な直感がさえるときも。
バーテンダーとしての腕はたしかで、お茶目な琉平はリバーサイドの人気者。

沖縄生まれのイケメン青年・新垣琉平(30歳)

そんな二人のバーテンダーが、ボケとツッコミの名コンビを演じながら、
お店にやってくるお客さんの心に、やさしい風をおくります。

ツバメ1羽 イラスト・岡崎勝男

今回、バーにやってくるのは――

第1話。「サザン・バード」

九州・五島列島

九州・五島列島生まれの青方明子(あおかた・あきこ)は、
玉川タクシーのドライバー。
上司の部長は、初の女性管理職として、会社を実質的に動かしている。
お客さんから感謝の手紙が届いたり、営業成績もよい明子は、
部長から可愛がられていた。
玉川タクシーは、「女性活躍企業」として、一気に好感度が高まり、就職希望者も増えた。
が、部長は、若くて可愛い明子に嫉妬の炎を燃やし、嫌がらせをはじめる。
会社に居場所のなくなる明子……。
あるとき、多摩川沿いを流していた明子は、鳩レースで迷った鳩を見つける。
その鳩が、明子に教えてくれたことは──。

1. 焼酎とかんころ餅 イラスト・岡崎勝男

第2話。「みどりの雨」

泳ぐ鮎

ドキュメンタリー映画監督のイ・ヨンス(李永秀)(50代半ば)は、
広島市の太田川の岸辺で生まれ育った。
二子玉川近くの宇奈根(うなね)で、妻とひとり息子との三人暮らし。
いまは、多摩川の鮎のドキュメンタリーを撮影している。
かつては汚れていた多摩川もきれいになって、
多いときは、年間1000万匹も川を遡上するという。
けれど、ヨンスは、鮎の産卵シーンがなかなか撮れない。
そんなとき、二子玉川駅近くの中州にあるバラック居酒屋の
女の子に産卵シーンが撮れそうな場所を教えてもらう。
その女の子は、ヨンスの初恋の女性にそっくり・・・。
倦怠期をむかえた妻との暮らしに嫌気がさしているヨンス。
居酒屋の女の子に、甘酸っぱい思いを寄せるのだが・・・

渓流

2. 鮎とワイン イラスト・岡崎勝男

第3話。「アフター・ミッドナイト」

カラス

真夜中過ぎ。閉店間近な時間なのに、
バー・リバーサイドの外で、カラスが騒ぎ出す。
と、そこにあらわれたのは、
アシスタント・バーテンダーである琉平の祖父=嘉手川林哲オジイ。
全身黒ずくめの格好。
沖縄で知らぬ者のない唄者(うたしゃ)である。
キューバやハワイ、アイルランドなどワールド・ミュージックのアーティストともコラボをし、
グラミー賞の候補にもノミネートされたこともある。 
そんなすごい人なのに、オジイはいつもマイペース。
風のように、飄々と生きている。
カラス好きのオジイは、同じくカラスが好きなマスターと意気投合。
かつて、太平洋戦争中に、移民していた奥南洋での
カラスとの不思議な体験を語りはじめる・・・。

沖縄のハイビスカスと青空
沖縄の海と三線
3. ブラックウォッカとカシューナッツ イラスト・岡崎勝男

第4話。「火の鳥の酒」

紅葉

晩秋の夕方。時雨(しぐれ)が通りすぎた頃、あらわれたのは
熊野大輔(くまの・だいすけ)。通称・大ちゃん。
広島県福山で生まれ育ち、いまは多摩川沿いのマンションで暮らしている。
英語の塾の講師をしながら、狩猟をしている。
高校卒業後、アメリカのイエローストーン国立公園でパーク・レンジャーをして、
ライフルの扱いをおぼえた。
大ちゃんが左手に持っているのは、その日、奥多摩の山のなかで獲ったヤマドリ。
ジビエに目のないマスターは、
大ちゃんのハンティングの話を聞き出していく。
実際に血を浴びながら狩猟をする大ちゃん。
「食べる」ことの意味、「いのち」の意味を
マスターも琉平も考えさせられる。

秋の風景

4. ウィスキーとヤマドリ イラスト・岡崎勝男

第5話。「オクトパス・クリスマス」

たこ焼き

大浜なぎさは、大阪・泉大津の下町出身。
祖母の代から「タコ焼き」屋をやり、母が継いだが、早くに他界。
その後は、会社員をしていた父が脱サラして、タコ焼き屋を続けている。
父のタコ焼きは天下一品。
父は、売れ残ったタコ焼きを食べながら、ビールを飲むのが大好きだ。
なぎさは、学生時代にイタリアに旅行して、
タコ焼きと同じコナモンのおいしいイタリアにぞっこんになり、
イタリア食材を輸入販売する会社に入った。
しかし、父の後を継いで、タコ焼き屋になるという夢を捨てがたく、
会社を辞めて、用賀のタコ焼き屋で修業を続けている。
そんなある日、用賀の店が、
とつぜん店を閉めることになってしまった・・・。
なぎさは、マスターと琉平、うどん屋の井上の前で、
自分の決意表明をするが、
それは、あまりにも意外なものだった・・・。

イタリアの風景
イタリアンサラダ
5. スパークリングワインとたこ焼き イラスト・岡崎勝男

シリーズ1からお馴染みの常連。
福岡生まれの手打ちうどん屋の井上。
オカマの春ちゃん。
台湾人の美人整体師・周雪麗先生。
清潔神経症のライター、森繁幸。
きらりと光る脇役たちが、華を添えます。

 

春の香りのするミモザ(スパークリングワインのオレンジジュース割り)、
五島の芋焼酎「越鳥南枝(えっちょうなんし)」のカクテル、
シチリアのワイン「コルヴォ(=からす)」、
鹿肉のステーキ、ヤマドリのささみの刺身などジビエ料理、
イタリア風タコ焼きとアペロール・スプリッツなどなど
……シズル感いっぱいのシーンが登場します。

バーで織りなされる魂のふれあい、そして、ビタースイートな人生模様。
ちょっぴり疲れたかな、と思ったら、
『酒の神さま』のページをぱらりとめくってください。
やさしい神さまが、きっと微笑んでくれるはずです。

二子玉川の植物

『酒の神様【バー・リバーサイド3】』 イラスト・岡崎勝男

すべてのイラスト・岡崎勝男

プロデュース:吉村有美子